2022年 4月17日 本/言葉

 性欲ではなく、執着なのである。リカに、自分を認めてほしい。リカが何かを見て美しいと思った時に、必ず自分のことを思い出し、自分とその美しいものをわかちあいたいと感じてほしい。リカが何かを伝えたいと思った時に、まず最初に自分に言いたいと思ってほしい。

 

 みのりと喧嘩するのは、楽しかった。なぜなら、仲直りをすることができるから。みのりと喧嘩しないのも、楽しかった。なぜなら仲直りをする必要がないから。みのりと一緒に歩くのは、楽しかった。なぜなら、みのりと同じものを見て喜ぶことができるから。みのりと一緒に歩かないのも、楽しかった。なぜなら、一人で見たものをみのりに教えてあげることができるから。

 

川上弘美『某』 幻冬舎文庫 2021年

 

 もし彼らが中年になっても、女学生のセーラー服に少しもワイセツ感をそそられないとすれば、これは重大問題である。そうなったら、文化財保護委員会みたいなものをつくって、とくにワイセツと認定されたものを、保存育成しなければならなくなるであろう。

 

 幼年期が私たちにとって、至福の黄金時代のように見えるのは、私たちが大人の目で、これを歪めて理想化しているからにほかならない、という意見もある。たしかフロイトも、そういう意見の持主だったようだ。

 しかしながら、あらゆる大人の世界の禁止から解放された、自由ななるしシックな子供の世界、時間のない、永遠の現在に固着している子供の遊びの世界は、やはり私たちの想像し得る、最も理想的な黄金時代と言ってよいのではあるまいか。

 アメリカの心理学者ノーマン・ブラウン氏の意見によると、人間の芸術活動のひそかな目的は、「失われた子供の肉体を少しずつ発見して行くこと」だそうだ。この意味ふかい言葉を、私たちは何度も噛みしめてみる必要があるだろう。そのとき、幼児体験の意味するものも、新鮮な光のもとに照らし出されて見えてくるだろう。

 

澁澤龍彦『少女コレクション』 中央公論社 2017年